「林亜季のナラティブ・アプローチ」とは

編集者・林亜季によるニュースレターです。

「ナラティブ」とはひとり語りで紡ぐ物語のこと。

普段は客観的な取材記事やインタビュー原稿を手がけることが多いですが、このニュースレターではひとり語りのアプローチをとってみたいと考えています。

遅筆ながら、毎週末の配信をめざします。

なぜナラティブか

個人の論理が組織の論理を凌駕し始めています。一昨年に経済誌で「インフルエンサー」という現象を特集した際、「『個』の時代の到来」と表現しました。

世界的な感染症の脅威を経て、その傾向が急加速したように思います。

移動から解放された一方、否応なく家庭に仕事が入り込んできて、上半身だけ整えてウェブ会議に参加。出退勤があやふやになり、私信と仕事の通知が混在、ビールを飲みながら夜な夜なPCを開く。24時間体制でSlackに反応する。「私」であることがいよいよ仕事上でも重要な意味を持つようになってきた──。「公私混同時代」を感じます。

そんななか、私ごとと公ごとを明確に切り離してお伝えするよりは、あえて混同しながらお伝えしてみたいと思うようになりました。

コミュニティが再構成され、近しい人とはより近く、遠い人とはより遠くなりました。

これまで事実を客観的に伝えることに徹してきたマスメディアがここへきて、有識者やプロフェッショナルによるコメンテーターを組織し始めました。ある事実に対し、どういう人がどういうふうに捉えているか、人というフィルターを通して知りたい、考えたいというニーズを感じます。

いまほどナラティブが力を持つ時代はないのではないかと思います。「こういう人がいる」という伝え方と、「私はこうである」という伝え方では、後者の方が力強さを持つのではないでしょうか。

ナラティブの実践

などと御託を並べましたが、結局、これまで私自身が手がけてきたコンテンツの中で、ナラティブ的な文章が最もたくさんの人に届いたのです。

女31歳。生まれてこのかた、一度も生理がない。
5年前にハフポスト日本版に寄稿した文章で、朝日新聞デジタルにも転載されました。当時両媒体合わせて数百万のページビューがあったそうです。継続的に読まれているとも聞きます。

自分のことということもあり、あまり気負わずに書いてみたものですが、「衝撃を受けた」「よく書いてくれた」「勇気をもらった」など多くのご感想を頂戴しました。内容は完全に私ごとですが、私のナラティブを通じてご自身の生き方や家族、仕事などについて考えるきっかけになった方もいたようです。

「無月経という女性がいる」という伝え方ばかりしてきた新聞記者からしたら、「私は無月経である」という伝え方がこんなにも多くの反響をいただけるとは。目から鱗でした。

(ちなみにタイトルの「女31歳」は最低限のバックグラウンドを想像するにわかりやすい表現ではないかと思い、つけてみました。「性別+年齢」の手法はその後も、著名人でない方の取材記事のタイトルワークにおいて何度か奏功しました)

ただ5年が経ち、いまとなっては一部フェイクニュースになってしまいました。「今のところ、夫婦仲はうまくいっている」の部分です。

事実婚を解消し、ひとりで暮らすようになりました。「今のところ」と前置きしているあたり、当時一抹の不安があったのかもしれません。

そういえば「女31歳」当時は新聞記者でしたが、その後思うところあり退職。ウェブメディアや出版社を転々とし、いま、メディア4社目です。

とにかく5年も経つといろいろなことが起きたり考えたりするもので、興味をお持ちいただける奇特な方に限ってお伝えしてみたいと思っていたところ、「theLetter」を運営する濱本至さんにお声掛けをいただきました。

私に何が書けるのか、どのようなアプローチが良いのだろうかと考えた挙句、いま改めて、ナラティブに挑戦してみようと思った次第です。

このニュースレターでは「いますぐ役に立つここだけの極意」や「手っ取り早く知りたい人に捧げる最低限の知識」といったお役立ち情報はお届けできないと思います。

生き方、アイデンティティ、家族、キャリア、働き方、衣食住、人間関係、体と心……。ナラティブを通して何らかの気づきや本質に近づくことができたら、と妄想しています。

もしよろしければ、お付き合いいただけますととても嬉しいです。

林亜季について

女性、36歳、独身。
2009年、朝日新聞社に入社。記者経験後、新ビジネスの開発などを行う「メディアラボ」で複数の新規事業立ち上げに携わり、経済部記者を経て退社。2017年、ザ・ハフィントン・ポスト・ジャパン入社。ハフポスト日本版の広告事業を統括するPartner Studio チーフ・クリエイティブ・ディレクターに就任し、初の黒字化に貢献。2018年7月、株式会社アトミックスメディア(現リンクタイズ株式会社)に入社、Forbes JAPAN Web編集部副編集長 兼 ブランドボイススタジオ室長に就任。同年12月からForbes JAPAN Web編集長。2020年7月、株式会社ニューズピックス / 株式会社アルファドライブに入社。NewsPicks for Business編集長 / AlphaDrive統括編集長に就任、編集者として両事業のコンテンツプロデュースを統括。2021年5月、文部科学省「大学教育のデジタライゼーション・イニシアティブ運営委員会」委員に就任。福井県出身。東京大学法学部卒。

「ブランドジャーナリズム」を追求しています。

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